TPPの問題点:農業問題を経済的視点から考える 

 

TPPに関して最も大きな懸念を示しているのが所謂農協です(なお、TPP参加のメリットについては、前回に説明をしました)。

 

農協は日本が参加すべきだと思う人は61%とする世論調査に反旗を振りかざすかのように、1120万人の署名を集め反対の姿勢を強めています。

 

出典:農業協同組合新聞 (2011.06.10)

 5月末で約1120万人の署名が集まった。当初目標の1000万人を大きく上回った。

 

 茂木会長は同日、談話を発表。国民の10人に1人に相当する署名が寄せられたが、運動期間の間に東日本大震災のために取り組み中断を余儀なくされた地域もあったなかで「これだけ多くの署名が全国のあらゆる地域から寄せられたことは国民のTPP反対の声がいかに大きいものであるかを証明するもの」と強調し「政府は国民の声を真摯に受け止めTPP交渉参加を断念すべき」、「復興の足かせにしかならないTPPへの交渉参加検討をただちに中止すべきである」と強調した。

 

では、何故反対なのか経済的側面から見てみましょう。

 

反対の根拠となっているのが、TPP参加の結果、国内総生産(GDP)減少額 7兆9千億円程度で就業機会の減少数 340万人程度とする農林水産省試算です。

 

出典:農林水産省試算 国境措置撤廃による農産物生産等への影響試算について

 

農産物の生産減少額 4兆1千億円程度

  コメ 生産減少額=197百億円

  小麦粉 生産減少額=8百億円

  甘味資源作物 生産減少額=15百億円

  牛乳乳製品 牛乳乳製品全体の生産減少額=45百億円

  牛肉 生産減少額=45百億円

食料自給率(供給熱量ベース) 40%→14%程度

農業の多面的機能の喪失額 3兆7千億円程度

農業及び関連産業への影響

国内総生産(GDP)減少額 7兆9千億円程度

就業機会の減少数 340万人程度

 

 

これを受けて、日本共産党は、TPP参画は例外なき関税撤廃が求められ、日本の農業は壊滅、関連産業も廃業に追い込まれると指摘をしています。

 

出典:20101120日(土)「しんぶん赤旗」TPP問題 市田書記局長の質問

 

市田氏 例外なき関税撤廃が求められ、日本の農業は壊滅、関連産業も廃業に追い込まれ、地方の雇用は失われる。日本の農山村地帯は見る影もなくなるだろう。

(中略)

1戸当たりの農地面積は北海道20・5ヘクタールに対し、EUは13・9ヘクタール。肉用牛飼養頭数は同178頭に対しアメリカは84頭―。市田氏は、すでにEUやアメリカ並みの経営規模になっている北海道農業でさえ壊滅的打撃を受けるとのべ、「“両立”は不可能だ」と強調しました。

 

 政府は日本の農産物関税率は11・7%とアメリカに次いで2番目に低くなっていると報告。(グラフ参照)

 

 市田氏は、「(政府は)農林水産物を中心に“鎖国”状態になるかのようにいうが、“鎖国”どころか十分すぎるほど開かれている。関税率の低さが日本農業の疲弊、困難の主要な原因だ。TPPへの参加は、崖(がけ)っぷちに立っている人を突き落とすようなものだ」と述べると、他党議員からもいっせいに「そうだ」の声があがりました。

 

一方、こうした試算に意義を唱える意見もあります。

 

例えば、この農林水産省試算は意図的に被害額を多くした作為的と意義を唱えているのが、キャノングローバル戦略研究所研究主幹 山下一仁氏です。

 

出典:2010.11.12TPPと農業問題」キャノングローバル戦略研究所研究主幹 山下一仁

 

 しかし、この試算は意図的に被害額を多くした作為的なものです。

 

 第一に、データのとり方です。生産額の減少のうちの半分の2兆円が米についての影響です。米農業は安い海外からの米によってほぼ壊滅するとしています。しかし、海外の米の価格について意図的に低い価格を採っています。日本が中国から輸入した米のうち過去最低の10年前の価格を海外の米の価格として採り、内外価格差は4倍以上だとしています。しかし、中国から輸入した米の価格は10年前の60キログラム当たり3000円から直近の2009年では1万5百円へと3.5倍にも上昇しています。一方で国産の米価格は1万4千円くらいに低下しており、日中間の米価は接近しています。内外価格差は1.4倍以下です。

 

 さらに、日本の農家の平均的なコストと輸入価格を比較しているようです。しかし、肥料や農薬など米生産のために実際にかかったコストの平均値は9800円ですが、0.5ヘクタール未満の規模の小さい農家の1万5千円から15ヘクタール以上の規模の大きい農家の6500円まで大きな格差があります。関税がなくなって国内の米価が下がれば、コストの高い規模の小さい兼業農家は農業を止めるでしょうが、規模の大きい農家は存続できます。それだけではなく、農業を止める兼業農家から農地を借りうけてますます規模を拡大するとコストはさらに下がり、日本の米農業の競争力が増します。

 

さらに、「輸入が増えれば国産が減り、輸入が止まれば国産が増える」という見方も事実ではないと指摘する意見もあります。

 

出典:「TPP不参加で農業を守れる」は幻想だ/浅川芳裕(月刊『農業経営者』副編集長)

 

 また、「輸入が増えれば国産が減り、輸入が止まれば国産が増える」という意見も事実ではない。

 

 実際、牛肉が自由化された1991年から5年後、消費量は全体で23t伸び、国産は20t増えた。輸入によって牛肉は日本人の食生活に完全に定着し、国産の需要も引き上げられたのだ。

 

 一方、BSE(牛海綿状脳症)問題でアメリカ産の輸入を停止した2005年、輸入が300t超減ったにもかかわらず、国産出荷量も10t近く減ってしまった。輸入牛肉の需要が豚肉や鶏肉に移行し、国産を含む牛肉消費が冷え込んでしまったのである。

(中略)

 そして、すでに関税の低い農産物が壊滅したかといえば、事実は逆だ。

 

 コメを超え、農業生産額の22%を占める野菜の関税は、多くの品目で3%しかない。FTA(自由貿易協定)を結んでいる国とはゼロにさえなっている。現在、関税より円高のほうが野菜農家の経営に影響を与えているくらいである。

 

 花卉は初めからゼロ%だが、現在も90%が国産で、世界3位の生産額を誇っている。

 

 果物もほとんどが関税率5%から15%程度であり、海外産と直接競合する品目は、輸入自由化後も生き残っている。典型がリンゴで、輸入解禁後、逆に国産が外国で人気となり、主産地の青森県では生産量に占める輸出割合は1割を超えるまでになっている。

 

 日本でつくっていない品目が輸入され、刺激される農産物もある。温州みかんはオレンジの自由化で壊滅すると語られたが、ミカンをはじめとした小玉系柑橘類の生産量は、いまだ世界4位をキープしている。

 

 サクランボも、アメリカン・チェリーの自由化後、市場は30%拡大した。アメリカン・チェリーとの併売によって売り場の“チェリーシーズン”が長期化され、サクランボが消費習慣として根付いたのだ。

 

 

今回はTPPが引き起こす農業問題の是非を経済的視点から見てみました。

 

次回は、TPPの問題点:医療問題から考えるを御覧ください。

 

TPP参加のメリットと問題点を考察する

TPPの定義と参加のメリット

TPPの問題点:農業問題を経済的視点から考える

TPPの問題点:医療問題から考える

TPPと農業問題の本質:野菜の関税は3%でも国産野菜が82%を占めていることは何を意味するのでしょうか?

TPPと農業問題の本質:全国農家数のうち、農産物販売金額が年間50万円以下の農家数は全体の86

Kと言われる農業なのに、何故高年齢化した兼業農家で米作が成立するのか?

 

 

 

 

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TPPの問題点:

農業問題を経済的視点から考える

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